物理学者と素粒子好きのみなさんとの、ILC(リニアコライダー)にまつわる対話集。
好奇心のおもむくまま話はいろいろなことろに、飛んでいきます! はてさて、素粒子物理研究の一端をここで垣間見る見ることはできるのでしょうか?
▼はじめのごあいさつ
![]()
広島大学准教授。スタンフォード線形加速器センターへて、広島大学へ。リニアコライダーでは「レーザーと電子ビーム」をキーワードに光子光子衝突や偏極陽電子源の開発を行っている。小学校のときは剣道場へ通い、中学・高校ではサッカー部だった。今でも週2回のスポーツジム通いは欠かさない。
![]()
バレエ評論家。第4回・5回日本ダンス評論賞入賞。好きなものはバレエと猫。著書に『「星座」になった人 芥川龍之介次男・多加志の青春』(新潮社)がある。
![]()
高エネルギー物理学実験を楽しんできたが、1年半前に KEKを定年退職して現在は名誉教授に。05年には木原元央氏と共著にて『リニアコライダー 素粒子の謎に挑む最強の加速器』(技術経済研究所)を刊行。
![]()
カリフォルニア工科大学大学院に留学し、スタンフォード線形加速器センター、フェルミ研究所等で素粒子実験に携わる。ハーバード大学准教授、ハワイ大学教授を経て現在東北大学教授。ILCの物理と実験に関する国際組織のアジア代表を務めている。趣味は茶道、ピアノ、インラインスケートなど。
![]()
2008年08月07日
皆様
山本さんが紹介してくれたグラショー教授について、
ひと言だけ触れておきたいことがあります。
教授は、(社団法人)国際経済政策調査会が主催する加速器科学研究会で、
今までに 2 度講演してくれました。
1 回目は、 2002 年 3 月に
『 科学と技術を牽引する高エネルギー物理学 』 というタイトルで、
そして 2 回目は、翌年 5 月に
『 ニュートリノについて 』 話してくれたのです。
聴衆のほとんどは国内企業からの方々です。
グラショー教授は白髪長身で、紳士ここにあり、
といった雰囲気がありました。
それに、端整でわかりやすい英語でした。
もちろん、日本の聴衆向けにやさしく話してくれたんでしょうが…。
教授の話には、基礎科学を強力に進めることに何とか役立ちたい、
という意欲を感じました。
第 1 回のタイトルからも想像できるでしょう。
非常に印象的だったことがあります。
結論を言い終った教授は、
「 自分はこの講演を一方通行のセミナみたいにしたくないんだ、
対話することが聴衆にとって、とても大事なことなんだ 」
と話しかけて質問を催促しました。
そして質問があるたびに、
「 すばらしい質問ですね 」
と十分にほめあげてから答え始めていました。
大学でも対話を重視した講義をやってるんだろうと、
つくづく向こうの学生がうらやましくなりました。
司会を任せたような形になった僕は、英語聞き取りに集中できました。
岩田正義より
2008年06月15日
天満様
ごくろうさま。
大物の新人を獲得できたわけで、うれしいですね。
経歴から言って、豊富な話題、国際的なぐっと広い観点、…
を持ち込んでくれると期待しています。
岩田正義より
2008年05月11日
みなさま
前回は、みっともないメールを出してしまいました。
今日は、ぐっと水準を下げて具体的な例を紹介します。
僕をミクロの世界に誘い込んだのは、中学時代に読んだ、
「 ぼくはアトム 」という本でした。
たまたま家にあったごく薄いもので、著者も知りません。
それ以降、「 原子 」とつく事柄が気になり始めたのです。
偶然ですが、書店で「 原子核物理 」だったかな、
そんな題名の本( 著者は荒木さん? )を見つけて飛びつき、
意外にやさしく説明してあったので、しばらく楽しみました。
高校1年くらいでした。
ミクロの物理法則が分かったのではなく、
新しいいろんな現象やことばを初めて知ったのです。
もちろん、素粒子も出てきました。
続けて「 原子 」や「 原子核 」の付く題名の本を探しまわったのですが、
地方の小書店にそんな本は、滅多なことではこなかったようです。
そのうちに新聞に「 原子力工学講座 」シリーズの広告が載ったのです。
しかも監修者が湯川秀樹博士。
これぞ読むべき本だと思い込み、
新聞を切り抜き、毎週のように書店に行って棚を見つめました。
店主は変な少年だと思ったでしょうね。
( 取り寄せてもらうことを知らなかったのです )。
買いたい、読みたい、と 1 年近く思い続けましたが、
次第にその意欲が薄れていきました。
もし科学に親しんだ大人がそばに居たなら、
きっと僕の方向違いの思い込みを教えてくれたでしょう。
岩田正義より
2008年05月06日
みなさま
『 物理学はいかに創られたか 』という本の話は、
実にタイムリーな話題となりましたね。
ちょうど 4 月の朝日新聞・読書欄でも、
原子核理論で著名な元文部大臣の有馬朗人先生が、
若いときにこの本に熱中したと書いておられました。
天満さんのメールと合わせて考えると、
一流の研究者になれるかどうかの判定基準のひとつが、
若いうちにこういうレベルの本を
理解できることなのかも知れません。
あいにく、僕のような者にとっては、
これは非常にきつい基準ですね。
この本を持っていたことは覚えていますが、
読んでみて分かったという記憶はまったくないのです。
きっと難しすぎて、簡単に諦めたんでしょう。
すぐに捨てなかったのは、著者名と題名に
威厳があったからかも知れません。
高校卒業以来、引越しを 10 回ほどやりました。
その中でも、特に本の大量処分をしたのは
外国行きのときと、退職時でした。
アインシュタイン先生に失礼なことをしたのは、きっと前者でしょう。
岩田正義より
2008年03月28日
天満さま
超ひも理論の講演を聴いてくるなんて…、
天満さんの好奇心の強さに感嘆します。
実は、(元)実験研究者の中でも特に理論に弱い僕なので
困った話題なんですが、
これは、量子論で考えることのできる
最小スケールの世界を相手にした素粒子理論だとのことです。
素粒子間の相互作用としては無視できていた重力が、
他の力と同じくらいの強さになる領域を考えるので、
粒子や力を「 統一 」して理解できる理論になるはずだ
と聞いています。
「 基本原理 」という足場つくりに挑戦し、
そこから今までの色々な疑問を解いていこうという、
いわばトップ・ダウン方式の考え方です。
それだけに、正直言って、僕のレベルでは
中身はとても分かりません。
超ひも理論はとても難しくてとっつきにくいのですが、
たとえ聴衆に理解してもらうのは無理でも、
とにかく多くの人に研究内容を説明しようという努力がされていることを
高く評価したいと思います。
ところで、理論の検証というのは、
実験研究の目的のひとつに過ぎません。
しかし現実には、今まで以上にエネルギーの高い加速器をつくる機会は
なかなかめぐってきません。
その間に理論的研究だけがどんどん先へ行って、
予言がいっぱい出てきます。
大型加速器計画を立てるときには、
どれに答を出せるか検討しておかねばなりません。
「 何か予想外のことが見つかるかも… 」
という牧歌的な時代じゃなくなったわけです。
返事にもならないメールになってしまいました。すみません。
岩田正義より
2008年02月27日
高橋さん
新入生を選ぶために、そして卒業生を送り出すために、
この時期の大学は特に忙しいようですね。
東広島も甲府盆地並みの最低気温に下がったようですが、
学生も先生も体をこわすことなく、過ごしてほしいと思います。
入試に関しては、たとえ足切りのためであっても
センター試験のような国内共通基準は利用しないで、
大学独自の試験だけで選抜するのが良いと思っています。
みんなが高級官僚養成大学みたいな存在を目指すのではなくて、
大学によって力の入れ方に違いがあるほうが自然でしょう。
これを実現するためには、
中高生への宣伝、学生選抜、前期教育などに関わる教員を
増やすことが必要でしょう。
そこに国がもっと投資する価値があると思います。
また、入学後、学生が自分と同レベルの仲間と群れあって、
ぬるま湯につかってしまう状況は望ましくないですね。
(自戒の念を込めて…)。
この点では、最近よくあるようですが、
他大学へ武者修行(?)に行くと、良い効果があるような気がします。
一方、理科離れの問題ですが、
これは大学入試科目が減ってから
目立ったような印象を受けました。
理科から離れても、生きていきやすくなったからでしょうか?
でも最近は、入試科目の適正化が意識されてきたようですね。
それに、大学が科学を社会に伝えようと努力しているようです。
マスコミの努力も目につきます。
全国紙、地方紙ともに、科学欄がずっと充実してきています。
漢方薬のようにじわっと効いてくるでしょう。
それに加えて、僕たちが夢見る国際研究センターができて、
世界の研究者が協力し合って
科学を切り開く様子が見えるようになれば、
きっと「 理科から科学へ 」という道を歩む若手が増えるでしょう。
岩田 正義より
2008年02月12日
みなさま
『 筑波の恋 』は読んでいませんが、
最初のデートで専門知識を懸命に、
しかし一方的にしゃべるなんて、困った人物ですね。
別れ際にすんなりと
「 また誘っていいですか? 」
「 いいわよ 」となってほしいのに…。
デートというのは、
お互いに自分のよいところだけを見せ合う場ですから、
相手にもそのチャンスを与える努力が必要でしょう。
僕がこんなことを言うと笑われそうですが…。
「 話し上手は聞き上手 」ということは、今でも通用しますよね。
もうデートの可能性のない僕ですが、地域社会に入ってみると、
高齢者との会話が多くなります。
聞き上手に出会うのは稀です。
( 耳が遠いからではありません )
なにしろ、右の耳から左へ抜けていくといった感じで、
どこまで話が通じたんだろうか、といつも首をかしげます。
その代わり、たっぷり聞かされます。
小学校同級生に定期的な集まり( 飲み会 )があります。
そんな場で、今までやってきたことを聞かれて
素粒子関連の話をはじめると、みんながすうっと引いていき、
遠くを見つめるような目になっていくような感じがします。
壁ができるんですよ。
なんだか、天に唾するような話になってしまいました。
岩田 正義より
2008年01月29日
高橋さんからの「 考えるときの様子は? 」という質問は、
僕にとっては答えにくいものです。
なにしろ退職してからは、
じっと考えることはずいぶん減ったのです。
幸せなことなんでしょうが…。
それでも、考えをまとめなければいけないことはあります。
多くの場合、紙に断片的な思いつきをメモしていきます。
あとでまとめるときに PC を利用します。
要するに、外部メモリーの助けが必要なんです。
実際、寝ていて思いついたことが、
翌日に生かされたという例は、ごくまれです。
思いついた事柄が脳に残りにくくなってきたし、
自分を診断してみると、頭の中で
考えを論理的に展開していけるタイプではないのです。
しゃべり始めても、途中で
「 あれっ、何を主語にしてはじめたんだっけ? 」
と、結び方に迷ってしまうことがよくあります。
これも同根の現象だと思っています。
紙よりも便利な「 外部メモリー 」がありませんかねー。
PCを持ち歩いて、カバーを開けてキーを叩くなんて
パッとしません。
流行っている IC Recorder なんか面白いかもしれません。
でも、紙に書くことに勝る使い方は思いつきません。
岩田 正義より
2007年12月26日
天満さま
小説『 天使と悪魔 』をうまくイントロに利用した講演があったとか。
反陽子の研究をしている早野さんのような研究者にとって、
最初は迷惑な本という存在だったのでしょうが、
結局は、みんなの興味をかきたててくれた本、
という地位に上がったわけですね。
天満さんに紹介されて、
この欄で『 天使と悪魔 』を話題にしたのは、1 年近く前でした。
なつかしい感じがします。
僕は今でも安っぽい(?)小説を読み続けています。
今年読んだものの幾つかに、
アメリカの国立研究所や加速器が、
特に或る本では線型加速器まで登場しました。
どう展開していくのかと楽しみに読み進めたのですが、
いずれの場合も、大切な役割を果たすこともなく終わっていました。
僕は読み終わった本を捨ててしまうので、
その採点表を作っていますが、
これらの本は、殆どがBクラスに相当します。
東京へ行くたびに、書店で小説を 10 冊くらい漁って来るのですが、
最近はA+以上の本に出くわすことが稀になりました。
( ミシュランではありませんが、最高点はAAAです 。)
勘が鈍ったか、ろくな本がないのか?
名前を見ただけで手が出た、
John Grisham 級のエースが書かなくなったためか?
いずれにしても、年末年始に向けてのストックが不十分なのは、
淋しい限りです。
いよいよ冷え込んできました。
風邪に気をつけて、よいお正月をお迎えください。
岩田正義より
2007年12月14日
天満様
中国新聞を送っていただき、ありがとうございました。
本の内容が簡潔に、うまく紹介されていますね。
山梨日日新聞のときもそうでしたが、担当記者のレベルの高さを感じました。
ところで僕の場合、写真が亡き親父に似ているとのコメントが多く、
どうもこれが記事を見たときの第一印象のようです!
ところで、天満さんがアンチ・ケイタイ依存症だったとは
予想外でした。
僕は、あんなチマチマしたものは…、それに使い方がわかりにくい、
という理由で持たなかったのですが、状況が変わりました。
ちょうど 1 ヶ月前、我が家と背中合わせの菓子工場が全焼したときのこと。
家族で遠出していました。延焼しそうだと町のみんなが心配して、
必死に連絡手段を探しまわり、知らせてなかった家族のケイタイに
やっとつながったのは、出火後 2 時間近く経ってからでした。
高速道路を必死に走って、さらに 1 時間かかって帰ってみたら、
我が家は無事に残っていました。そのときどれだけ安堵したか…。
3 メートルくらいの間隔しかなかったのに、条件に恵まれて
延焼を免れたのです。
小さな地域社会ではわずらわしいことが多いと思っていたのですが、
今回はその良い一面をたっぷり味わいました。
これをきっかけに町の人から、自治会長でもあるんだから
ケイタイを持つようにと忠告され、家族のものを自分専用にしました。
焼けた工場の解体作業が進んでいます。
すぐ近くで重機が動いているため、
我が家はまるで耐震強度を試験されている気分です。
あっ、そうだ、天満さんは PC を更新されたんですね。
しかも外界とのつなぎは、無線とヒカリですか。
いずれ使い勝手を教えてください。
岩田正義より
2007年11月28日
みなさま
高橋さんの「 北京だより 」を読んでなつかしくなり、
自分の記録をひっくり返してみました。
すると 1994 年を初めとして、計 6 回北京を訪れていました。
当時はまず、 2,000 キロちょっとという距離の割には、
北京への飛行時間が長くて、がっかりしました。
これは、北朝鮮上空の飛行が許されず、
大きく上海方向に南に回りこんで飛ぶためとわかりました。
( 今もそうでしょうか? )
昔、ヨーロッパへ行くのに旧ソ連上空を飛べず、
アンカレッジ経由で大きく北を回った事情と似ていますね。
次に、「 ビッグバンをつくりだせ 」のプロローグでもちょっと触れましたが、
自転車の多さが印象的でした。
人口と同じくらいの台数があるんじゃないか、と思ったくらいです。
自転車であってもこういう規模の流れになると、すごい迫力でした。
でも高速道路網が広がり、自動車の割合が急激に増え続けているようです。
「 あぁ北京! 」と思わせる情景がなくなりそうですね。
北京での移動はいつも車でしたが、
僕にとっては、これが大の苦手でした。
いつも、ブレーキとクラクションしか使っていないような運転でした。
ひんぱんに、しかも乗客が予期しないときにブレーキがかかり、
呼吸のリズムが崩れて、気持ちが悪くなったものです。
高橋さんの報告からは、今では車が整然と走っている地域が
広がっていると感じました。
間違いなく改善されていますね。
もうひとつ印象的だったのは、特に冬のスモッグのすごさでした。
みんなが石炭を使っているためだとの説明を受けました。
その後どのくらいよくなったでしょうか?
北京は政治・経済だけでなく、ILC 関連の行事でもわかるように、
学術面でも重要な役割を果たしています。
そしてオリンピックを機会に、都市としてさらに飛躍しようとしているわけで、
また訪れてみたいと思いますが、典型的なおのぼりさんになるでしょうね。
岩田正義より
2007年11月07日
みなさま
「 加速器の夜 」という行事ですか。
どんなことをやるのかイメージできないので、
あらためて「 社会科見学に行こう 」のHPをのぞいてみました。
正直なところ、「 見学 」活動の目的が、
なかなかピンときませんでした。
少し分かり始めたような気がしたのは、
見学の実例をいくつも見てからです。
それにしても、身近になかった新しいタイプの活動に
まず大きな距離を感じてしまうのは、
新しくない世代の特徴でしょうね。
何はともあれ「 百聞は一見に如かず 」ですから、
「 加速器の夜 」に行ってみたい気もします。
しかし、遠くで夜おそくまでというのは、
残念ながら僕の今の( 健康的な )生活リズムを壊します。
ところで、研究の現場から離れてみると、
粒子加速器というものが一般の人にまったく知られてないと、
つくづく感じます。
その機能と規模が日常的な感覚とはかけ離れているため、
余計分かりにくいのでしょう。
出版したばかりの「 ビッグバンをつくりだせ 」( プレアデス出版 )が、
この大きなギャップを埋めるのに少しでも役立ってほしいですね。
日本加速器学会ができたのは 2005 年でしたっけ。
加速器の応用分野は物性科学や産業技術そして医療へと広いので、
会誌の記事はさまざまで面白いのですが、
会員向けですから、一般向けにはなっていませんね。
つくばの高エネルギー加速器研究機構( KEK )で、毎年夏に
加速器スクールが行われているのをご存知でしょう。
そこでは、担当者が力をこめて書いたテキストが用意されます;
www.heas.jp
やはり一般向けではありませんが…。
加速器学会なり大きな研究所なりが、その蓄積を生かして、
後継者を育てるための教科書とともに、一般向けの出版に、
組織的に取り組むことを期待したいですね。
岩田正義より
2007年10月24日
みなさま
出版界では、
「純粋基礎科学の本は売れない」
「加速器は売れない」
というのが定説のようですね。
そんな状況で私たちの本が、やっと出版されたわけです。
しかも、時は読書の秋です。
刊行してくださった出版社の度量と度胸に感謝しています。
本が出来上がってみると、どんな印象を与えるのか
読んでみたくなるのと同時に、読むのが怖い気がします。
勇気を出して拾い読みしてみました。
やはり僕が書いたところ、特に説明部分は、
文章が硬くてとっつきにくいかもしれない、
と不安になりました。
退職までの数年間、ある大学で特別講義を担当し、
加速器と素粒子実験の話を毎年していました。
プロジェクターを使って話している間、
多くの学生が心地よさそうに眠っているのがよく見えました。
「子は寝て育つ」のです。
「こういう学問にとって大切なのは、
知力よりも体力と性格の明るさだよ」
といった類の話に切り替えると、みんな起き上がったものでした。
何はともあれ宣伝だと、さっそく近くに住む小学校時代の同級生や、
クォークを知っていた町内の住職さんなどに本を謹呈しました。
多くの人が読んでくださるといいですね。
岩田正義より
2007年09月29日
みなさま
猛暑の後遺症で、ボケッとしたままご無沙汰してしまいました。
お二人とも大きな地震を経験されているんですね。
災害の話は、やはり経験者から聞くと
怖さのイメージが浮かびます。
僕は幸いに大地震には出会っていません。
今までに住んだ土地の中で、
仙台、東京、名古屋、ニューヨーク、ジュネーブ、甲府では、
地震をほとんど意識しませんでした。
ところが、つくばは、違いました。
よく揺れるのです。
寝ているとゴーッと地響きがして、度肝を抜かれます。
それからユッサユッサと揺れ始めます。
こういうタイプの地震が多いのです。
筑波山の下が広く岩盤になっているからだ、と聞きました。
( P波によるものでしょうか。
初めの音は、自然の地震速報みたいなものです )
つくば市から 50 キロくらい北の方に、
焼き物で有名な、益子と笠間があります。
よく出かけた所でしたから、大きめの地震が来るたびに、
棚に並んだたくさんの焼き物は大丈夫だったろうか
と心配したものです。
地震の巣とも言われる茨城ですが、
頻繁に揺れてエネルギーを吐き出すので、
大地震には至らないようです。
ですから生活上はあまり心配しませんでしたが、
KEK で巨大な実験装置( 8 メートル立方で 1200 トンくらい )
をつくったときには、耐震性を大いに気にしました。
振動してぶつかり合うと壊れそうな検出器部分については、
近くの防災研で揺さぶって、安全を確認してもらいました。
また装置全体が揺れても、茨城の典型的な地震に同調して
増大しないことを、計算だけでなく振動試験でも
会社に調べてもらったものです。
それにしても、大きな地震のニュースが多いですね。
僕が住む地区の防災訓練は、 8 月末でした。
(こういうときになぜ来賓挨拶があるのでしょうか?)
岩田正義より
2007年07月20日
みなさま
天満さんの著書が大々的に出版されましたね。
『 「 星座 」 になった人 芥川龍之介次男・多加志の青春 』( 新潮社 )
http://www.shinchosha.co.jp/book/304971/
です。ILC計画応援団の同志としての天満さんに、
心からお祝いを申し上げます。
送って下さった本を、さっそく読みました。
第一印象は、「 こりゃ面白い! 」
今までメールのやりとりをしていても、
天満さんがあちこちと走り回っている(?)、
多くの人と交流がある、といった雰囲気を断片的ながら感じて、
不思議な方だと思っていました。
この本のためだったんですね。
『 「 星座 」 になった人 』では、著者がほぼゼロから出発して、
「多加志さん」についての情報を捜し求める行動と、
やっとみつかった情報の源と内容を述べて、
全体像をつかもうとしています。
注釈で情報源などを説明するやり方はとらないで、
本文で全部を述べています。
ノンフィクションの中でもこういう書き方は、
深い思い入れを持った著者の心理と行動がモロにみえて、
しかも多くの関係者のつながり方もみえてきて、
面白いなと思いました。
どのチャンネルでは情報が得られなかった、
といった部分さえ、興味を惹きました。
あんな不幸な時代でなかったら…、
という悔しさが伝わってくる本です。
それにしても、「 多加志さん 」の年譜はあっさり 1 頁に
収まってしまうんですねー。
岩田正義より
2007年07月14日
高橋様
おもしろそうな話ですね。
まったく知りませんでした。
実験で分かっていた、短距離力を表す
ポテンシャルの形の提案にとどまっていたのでしょうか?
問題はその形の解釈ですね。
核子散乱は、
まさに核力を調べていることになりますから。
特定の力、
つまり朝永先生が直接に関与した電磁力については、
光子を介して力が及ぶことが
既にわかっていたと思いますが、
これと中間子のアイデアとの関連は知りません。
歴史に疎いため、こういう話に弱いのです。
岩田正義より
高橋様
おもしろそうな話ですね。
まったく知りませんでした。
実験で分かっていた、短距離力を表す
ポテンシャルの形の提案にとどまっていたのでしょうか?
問題はその形の解釈ですね。
核子散乱は、
まさに核力を調べていることになりますから。
特定の力、
つまり朝永先生が直接に関与した電磁力については、
光子を介して力が及ぶことが
既にわかっていたと思いますが、
これと中間子のアイデアとの関連は知りません。
歴史に疎いため、こういう話に弱いのです。
岩田正義より
2007年07月08日
みなさま
天文学にも相対論にも弱いのですが、
織女と牽牛については
そのようなことを読んだ記憶があります。
でも、いいんです。
僕たちの頭に残ったのは、毎年 1 回会える牽牛と織女なんです。
こういう会合が不可能なケースには、愛なんて語れないのです。
月だってそうです。
アポロが見た月は、僕たちが知っている、
ウサギが居る月とは別の月だったのです。
科学が自然をあばいていくとき、僕たちのロマン(?)を残す道が
あってほしいですね。
岩田正義より
2007年06月30日
みなさま
何に書いてあったか覚えていませんが、天才ダ・ヴィンチは
人間を人並みはずれた集中力で観察して、よくスケッチしたそうですね。
しかも、体の内部にも興味を持ち、死体の内臓もよく観察したとか。
だから、どういう姿勢の人なり天使なりにしても、
実に自然な肢体として描けたそうです。
これが、天満さんが絵の先生に言われたことなんですね。
僕が小学生だった頃、ある著名な画家の絵の教室に通っていました。
でも何も教えてくれませんでした。
「その他大勢」のうちのひとりだと正しく認定されたのでしょう。
月刊小冊子のJAF Mateをみていて、
「方向音痴」という現象を思い出しました。
名古屋に居た頃、頭の中では東西が逆転していました。
( ほとんど電車通勤だったので問題はありませんでしたが… )。
ロングアイランドに住んでいた時も、東西が逆転しがちでした。
車を運転しながら、交差点ではいつも地図を頭に描きなおし、
新しい東西をインプットしてから曲がっていました。
だから、ドライブを好きになれなかったのです。
昨年に広島を訪れるまでは、広島は日本海に面していると
信じていました。
厳島神社は日本海に浸っていると…。
山陽線と山陰線の違いは知っていたのですが、
どうしても地理がイメージとして、正しく定着しないのです。
自分は、方向音痴だと認識していますが、
最初に地図を眺めたときの方角が定着しないどころか、
( わずか二次元のことなのに )逆転してしまうのは、
脳のどこかに欠陥があるとしか思えません。
脳をCPUに例えれば、どこかに不安定な、または壊れたビットが
あるんでしょう。
脳神経が再生できなくなった場所が、あるのかも知れません。
せっかく天才の話で始めたのに、
変な話にずらしてしまい、すみません。
岩田正義より
2007年06月09日
みなさま
小柴先生の有名なお言葉から始まったやりとりで、
奇しくも同じような表現が出てきましたね。
考えることを積み重ねると脳の回路が鍛えられる
( スポーツ練習の繰り返しと同様 )、という高橋さんの解釈は
とてもわかりやすいものです。
天満さんは、バレーを例にとって、
鍛錬を続けて「 洗練 」に至ると言いました。
小柴先生の、特に「 考え抜き 」という部分は、
常人( 僕 )にはとても跳び越せないような、
非常に大きなバリアーを表現しているような気がします。
すごい努力が必要と言うよりも、
すごく努力できる能力こそ必要かな、と思えてきます。
実際、バレーでも「 踊れる体をつくるのに15~20年かかる 」とのこと、
びっくりしました。
以前、T. Murphyの『 Ballet ! 』という小説を取り上げましたが、
主人公のバレリーナは、週に平均10足のシューズをつぶす、
とありました。そんなにすごいんですか?
僕は毎日ウォーキングをしていますが、
殆ど何も考えずに歩いているようです。
眼は、住宅の概観や草木の様子、
視界が開けた場所では、四方の山並みに行きます。
街中では、店の種類をみて、
「 なるほど、床屋(または美容院)はどこでも必要だな 」、
「 そう言えば、髪結いは江戸時代から安定した職業だったな 」
などと合点する程度です。
これでは脳の回路が縮まっていくでしょうね。
岩田 正義より
2007年05月21日
天満さま
確かに、思考の上とは言え、
好きな動物を実験対象には選ばないでしょうね。
もし今選ぶのだったら、きっとシュレーディンガーさんは
考え込んでしまうでしょう。
ところで KEK の猫で思い出しました。
KEK の草むらにはマムシもいるんですよ。
僕がまだ勤務していた頃、安全警備員が、
研究棟から遠く離れた実験室近くで捕まえて、
警備報告書に「写真付き」で書いてくれました。
数回ありました。
カエルもいっぱいいるということでしょうね。
研究所の一般公開に行く方々が心配することはありません。
そんな草むらは見学ルートや休憩地にはありませんから。
岩田正義より
2007年05月13日
天満さま
物理とは離れますが、天満さんは猫と付き合いが深いと
聞いたような気がしますので、ちょっと伺います。
犬は人になつき過ぎ、甘え過ぎますが、猫は野性を残していて、
人間と適度な距離を保っています。
だから犬より猫なんです。
それにしても、ウォーキングで出会う多くの人は、犬の散歩ですね。
これは恐怖の的です。
先代の猫は、娘に泣かれて飼った捨て猫( すでに親 )でしたが、
激しい気性と可愛さとを持った、なかなかの器量のメスでした。
その後を継ぐ今の猫は、生後 14 年くらいで
実にオットリとしています。
動物医によると、猫の1年は人間の 4 年程度だそうで、
顔のシワはわかりませんが、
もう還暦は過ぎた世代に相当しそうです。
初めから屋内生活で、外界を知りません。
うっかり庭に出てしまうと、おろおろしてしまうようです。
こいつは、
1) 伝統的なえさ( 味噌汁をかけたごはん、焼き魚、魚の骨、
肉などに加え、通常のドライフーズ )を食べない、
2) ひどく顔見知りする( 慣れていない人が来ると、必死に逃げて隠れる )
という問題を持っています。
これは異常ですか?
最近この猫の調子が悪いのです。食べたら吐く症状に続き、
食べたがるのに、水以外の何ものどを通らなくなりました。
こういう経験はありませんか?
原因として、
1) 深刻な消化器の問題、
2) しばらく幼児に追いかけられていたので、ストレスから胃潰瘍になった、
( 小さな子の行動は予測できないので、近寄られるたびに猫は強く警戒していた )
を考えました。
病院に連れて行くと血液検査! それにバリウムを飲ませて、
まず胃、さらに時間をおいて下腹部の X 線検査!
結論;腫瘍のような悪いものの兆候ナシ、
基本的に年令の問題でしょう、というわけで、
注射3本を打って人間ドック並みの費用でした。
老人医療保険は効かないんでしょうか、と聞くべきでした。
たかが猫、されど猫、といったところです。
岩田正義より
2007年04月26日
みなさま
昨年だったかKEK関係者から、一般向けの本を準備している、
加速器関係は売れ筋ではないので、出版は簡単ではなさそうだ、
と聞いていました。
それはこれを指していたんですね。Newtonムックの、
「小さな素粒子を見る巨大な装置:加速器がわかる本」
が出版されました。
高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所、
日本原子力研究開発機構が協力したものだそうです。
( それにしても、研究機関の名前をもっと短くできませんかネー )。
今まで粒子加速器をやさしく紹介する本がなかったので、
手にとってうれしくなりました。
そして、隅々まで読まないうちに感心しました。
第 1 に、素粒子、宇宙、各種の加速器、加速器応用、
それにリニアコライダーまでを含めて、よくまとめきったものです。
第 2 に、ページ構成です。見開きごとにテーマを持ち、
左に本文、右に図や写真があって見やすくなっています。
これは解説を書きやすいやり方で、賢明だったと思います。
さらに、図や写真が大きくなるので、細部まで見やすいのです。
高級な絵本とも言えます。
内容をほめちぎるわけにはいきませんが、みんなに伝えたいという
努力の跡が見える本です。
みなさん、読む、または見る価値がありますよ。
内容とは関係ありませんが、ひとつ文句があります。
目次のページを探すのに苦労しました。開きにくくなっています。
大事なことですよ。
岩田正義より
2007年04月15日
天満さま
山下さんの講演の様子を知らせていただき、
ありがとうございました。
楽しまれたようですね。
ところで山下さんは CERN に 6 年も居たそうですね。
前にも触れたように、僕が滞在したのは、はるか昔のことでした。
ヨーロッパが、アメリカに代わって、
高エネルギー物理を牽引し始める前夜だったとでも言いましょうか。
見当たる日本人研究者は片手で数えるくらいで、
自国語で相談できる相手が無いも同然でした。
CERN での公用語は、今でもそうでしょうが、仏語と英語でした。
ジュネーブはスイスの仏語圏ですから、研究者以外は仏語が主流でした。
仏語の素養が無かった僕が、所内の会話教室に行かなかったのは、
振り返ってみると大きなヘマでした。
CERN は、その周囲に長期契約をした家具付きアパートの部屋を
たくさん持っていて、僕はこれに入居することにしました。
所内のハウジング・オフィスの担当です。
そこには、日本語を話せるフランス人が居る、
と誰だったかが教えてくれたので、行ってみると、
なるほど日本語がペラペラ。
日本に居たことがあると言うので、何をしていたのかと聞くと
即座に「ヤクザ!」(笑)
正体が何であろうと、地獄に仏とはこのことでした。
当時すでにおじさんだったからもう居ないでしょうね。
仏語ができないと、所内で意思疎通を欠く部分ができます。
実験グループ担当の技術者とは、毎朝会うたびに、
おはよう、元気?
ハイ、あんたも元気?
ハイ、
この後が続きません。互に見つめあい、ニヤっとして別れるという繰り返しでした。
淋しかった。
或るパーティーで、どんな仏語を知っているのか聞かれたとき、
やむを得ず「ジスカルデスタン(当時の仏大統領の名前)」と
答えて笑われました。
でも嘘ではなかったのです。
2 度目は単身で滞在しました。
ある日、ひとりぼっちを見かねた実験責任者のアメリカ人教授が、
映画に連れて行ってくれました。
夫人と 3 人でした。
上映していたのは「道化師」というイタリア映画。
音声はイタリア語、ジュネーブだから字幕はフランス語とドイツ語!!!
隣に座った教授夫人が気を使って、ひんぱんに英語で解説をしてくれました。
恐縮してコチコチになり、理解するどころか本当につらい映画鑑賞でした。
漫談みたいになってしまいましたが、仏語には泣かされたのです。
天満さんはバレーを通じてよく知っているでしょうから、
こんど山下さんに会ったら、6年間で磨いたはずの仏会話力を試してみてください。
KEK周辺で全国の若手研究者をみると、英語力の高さに驚かされます。
間違いなく、研究環境が国際的になったためです。
国際リニアコライダーでは、公用語は何になるんでしょうかね。
岩田正義より
2007年04月01日
みなさま
海外から多くの人が集まる環境をつくるときには、
税金申告を含めたいろいろなサポート体制が重要だ、
という高橋さんの指摘に大賛成です。
経験を積んだ KEK では
体制がずいぶん改善されていると感じます。
ILC では、長期滞在者がぐんと増えるでしょうから、
サポート内容も規模も、拡大したものが必要でしょうね。
僕も米国滞在中は、税金申告が大の苦手でした。
シーズンになるとどのスーパーマーケットでも、
申告を代理でやってくれる、
という弁護士の広告でいっぱいでした。
でも余分な(?)収入のない、僕のケースは簡単なはずなので、
必死に取り組みました。
自信を持てないまま郵送しましたが、
いつも申請どおり、なにがしかが、小切手で戻ってきました。
大したことのない収入だったので、
計算チェックもしなかったのでしょう。
ヨーロッパへの出張で締め切りに間に合わないときには、
国税局( IRS )へ手書きの手紙で、延長を申請したりしました。
日本に帰国したら、
市役所から、滞っている今までの市税を払いなさい、
という通知が来て、腰を抜かしました。
あー、そう言えば米国へ出かけるとき、
住所変更を届け忘れたから、
住み続けていたことになっていたんだ。
あわてて今までのパスポートを持って市役所へ行き、
縷々説明して納得してもらったのです。
海外滞在中に期限の切れた運転免許証は、
確か帰国後 2 週間以内なら更新できたのですが、
気が付かずに無効になってしまいました。
幸いニューヨークの免許証は、まだ有効でした。
これを持ち込んで、日本の免許をもらいました。
少々ムッとしましたが、今までの運転歴はパーで、
その日に初取得という扱いでした。
海外への往来・滞在では、いろんな手続きが必要で、
何かしら、ヘマをしがちですね。
岩田正義より
2007年03月19日
天満さま
お便りありがとうございました。
天満さんの嗜好が科学にまで及んでいる理由(の一部)を
知ったような気がします。
僕は、寺田寅彦が、
地球物理学者で随筆家だとは、知っていましたが、
随筆のどれかをきちんと読んだ、という記憶はありません。
彼が、夏目漱石にも学んだ俳人でもあったことは、
ごく最近知ったばかりです。
そんな調子ですから、寺田寅彦がバレーにも興味を持っていたなんて
まったく知りませんでした。
バレーと言えば天満さんの専門分野(のひとつ?)ですね。
僕にとってバレーとの接点は、
T. Murphyの『 Ballet! 』というペーパーバックス(1978刊)
しかありません。
これは東西冷戦時の情報部員の暗躍を、
クラシックバレーの舞台もまじえて
組み立てたスリラーです。(もう絶版でしょうね)。
ページがもう黄ばんだまま本棚に眠っています。
バレーそのものについての記述はすべて新鮮だったと
記憶しています。(分かりにくかったんですが…)。
筋は覚えていませんが、何か印象に残って、
また読みたくなるかも知れないと
考えたのか、捨てずに残してあったんです。
これをきっかけに読み返してみます。
岩田正義より
2007年02月19日
天満様
先日、「 生成できる反陽子の量は、
反物質爆弾などとはまったく縁のない量 」と
書きましたので、ちょっぴり補足しておきましょう。
反陽子は高エネルギー加速器でつくります。
そこでかなりエネルギーと方向の揃った反陽子を束( ビーム )とし、
今度は、加速器と逆の機能を持つ「 減速器 」という装置に送り、
エネルギーを千分の1くらいに落とします。
CERN では、100 秒ごとにおよそ 3 千万個という低エネルギー反陽子が
ビームとして得られているそうです。
実験グループは、これをさらに減速する装置を使って
超低速化した上で、磁場と電場をうまく組み合わせて使い、
多数の反陽子を貯蔵します( 超高真空中に浮かせます )。
減速器からビームが来るごとに、100 万個くらいの反陽子を
一旦貯蔵できるとのことです。
この減速、貯蔵を可能にしているのは、超精密にできた装置です。
ところで、1 グラムにするには
10 の 23 乗個の反陽子を貯めなければなりません。
100 万個はたったの 10 の 6 乗です。
親の加速器のエネルギーを上げて、もっと多くの反陽子をつくり、
ビーム化の効率を高め、すべての減速プロセスと捕獲とで
損失をなくしたとしても、全体で1万倍の向上が可能かどうか疑問です。
できたとしても、全システムをぶっ続けに運転して
1千万年くらいかかるという計算になります!
非常に荒っぽいとは言え、こういう計算は
チェックポイントがないので苦手です。
でも、少しくらい桁を間違ったとしても、結論は同じです。
大きく進歩している反陽子科学であっても、
反物質爆弾などとは、まったく縁がありません。
幸い、あの小説の本当のポイントは爆弾にはなくて、
謎解きと予期しない展開でした。
本音の感想を言いますと、
「おれたち読者にあんな謎を解けるわけがないよ」。
岩田正義より
2007年02月11日
高橋 様
高橋さんは、リニアコライダーでの
フォトン衝突物理を検討する国際組織で、
日本を代表して活躍してきましたよね。
そういう人が、ヨーロッパのセンターである CERN 研究所に
行ったことがないなんて、 ウッソー!と言いたくなります。
ところが、似た例があったんです。
国際共同研究で活躍してきた、日本の著名な研究者です。
その方が、ある研究会の委員として、アメリカの3大研究所を訪問し、
日本との共同研究の実情を、調査することになりました。
そのとき、僕は幹事役でした。
その方が出発直前に、
「 実は私はアメリカに行ったことがないんです 」
と話してくれたとき、ポカーンとしたのは僕だけではありませんでした。
その方が永らく活躍してきたのは CERN での実験でした。
高橋さんはアメリカの SLAC 研究所でしたね。
お二人とも「天動説」のために、競合相手を訪問する必要なし、
と考えたのでしょうか、
それとも単にめぐり合わせでしょうか。
もちろん後者ですね。
こういうことがあるんですね。
ふっと思い出しました。
岩田正義より
2007年02月03日
天満さま
D. ブラウンの " Angels & Demons " を読みました。
読みやすい英文でしたから、宗教用語は推測で済ませ、
我ながら、驚くほどの短期間で終えました。
もっとも、退職して勤めを持たない自由の身だったから
時間はたっぷりあったのです。
確かに、" FACT " と銘打った冒頭の 1 ページで、
実在する CERN ( Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire )
という有名な研究所で反物質を作る研究が大きく進展し、
反物質から新型爆弾を作る可能性ができた、と書いています。
書店に高く積まれていたとは言え、
D. ブラウンの著書に興味は湧かなかったのですが、
この 1 ページで読んでみる気にさせられました。
小説中の CERN は、実際よりもはるかに凄い研究所として、
その一方では殺人の舞台として登場します。
いろいろな点で、CERN としても黙っていられないだろうと思いましたが、
天満さんの指摘で、ホームページをのぞいてみると、
まじめに対応して、ていねいに解説してありました。
有名税とも言えますが、
これは、CERN の充実した広報体制をうかがわせます。
僕が、CERN の実験に参加したのは、
ずっと若かったときのことです。
そんな頃から、ヨーロッパのための大規模共同研究機関として、
CERN の組織は非常にしっかりできていて、
意見の食い違いに対処することにも
皆が慣れている雰囲気でした。
今、CERN では、LHC という超大型加速器の建設が
最終段階を迎えているはずです。
予定されている実験計画には、日本のチームも加わっています。
これからの素粒子物理をになうもうひとつの雄として、
僕たちは ILC に期待しているわけですね。
小説にでてくる反物質の研究は、確かに CERN で進んでいて、
日本が主導した実験チームも活躍しています。
生成できる反陽子の量は、爆弾などとはまったく縁の無い
量なのですが、この小説は、現実性はともかく
原理だけを利用したアイデアで度肝を抜くという点で
成功したと言えるでしょう。
それに、後半のストーリーの展開のうまさですね。
映画になるんですか?
小説では、新型爆弾の効果をぼかしていました。
どんな画面にするんでしょうかね。
岩田正義より
2007年01月04日
みなさま
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
クライン・仁科公式の説明を高橋さんが始めてくれたばかりですが、
本格化する前にちょっとわき道にそれていいですか?
中野 ー 西島 ー ゲルマン法則などで著名な西島和彦先生が、
2005 年 12 月の仁科財団創立 50 周年記念講演会で、
「 仁科芳雄と日本における素粒子物理学の原点 」
というお話をされました。
最近、そのときの記録( 出版物 No. 44 )を読む機会がありました。
( ただ、この講演は、一般向けとは言えないレベルなのが
残念です。 )
そこには、仁科は例の公式を導いたことで、
「 理論家としてデビューして、いきなり当時の理論の最先端に
躍り出たことになる 」とあります。
なんでも、量子力学と相対論とを初めて融合させたことで有名な
“ ディラック方程式 ” が発表されたのが 1928 年( 昭和 3 年 ) 1 月、
それを電子による光子の散乱という基本的なプロセスに応用し、
例の「 公式 」を発表したのが、同じ年の 10 月だったそうです。
量子電磁力学が出来上がっていなかった時期の成果でした。
実験研究に加えてこの理論上の貢献、
そして帰国後の( 困難な時期の )研究体制構築など、
仁科先生の仕事は、私たちが聞きかじっていた以上に
大きかったんですね。
電子も光子も身近にふんだんにある素粒子ですから、コンプトン散乱
と呼ばれるその現象は、色々な面で利用されています。
最新のものは高橋さんが紹介してくれるでしょう。
古い世代の僕には、どちらかと言うと、この散乱は迷惑なものでした。
大学での学生実験には、たいていガンマ線( 高いエネルギーの光子 )
検出というテーマがありました。
今でも多いと思います。
検出器という物質は、一般に電子のような電気を帯びた粒子を検出し、
そのエネルギーを測ることができます。
もし、ガンマ線が物質中で全部のエネルギーを使って
原子から電子を叩きだす反応( 光電子効果 )だけを起すなら、
検出器の信号はもとのガンマ線のエネルギーに
相当した大きさに揃います。
しかし電子を相手にガンマ線が散乱するコンプトン散乱が起きると、
電子が受け取るエネルギーは広く分布して、
検出器信号の大きさも広がってしまいます。
現実には両方が混在します。
親のガンマ線エネルギーを測るという目的からみれば、
憎らしい存在でした。
自然現象に愚痴を言っているわけではありません。
思い出です。
岩田正義より
2006年12月21日
天満様
わが国の加速器の黎明期をつくった仁科博士については、
どうやら僕よりよくご存知のようですね。
久しぶりの東京で、放射線医学総合研究所・前所長の平尾泰男先生の
講演を聞いてきました。
第 42 回加速器科学研究会 (社団法人・国際経済政策調査会主催) での
お話で、主題は粒子線によるがん治療だったのですが、
仁科博士が作ったサイクロトロンの不幸な結末を、
あらためて、そして生々しく思い浮かべる機会ともなりました。
敗戦直後に GHQ の指令によって、理化学研究所だけでなく
大阪大と京都大のサイクロトロンも、原子爆弾製造装置とみなされて
破壊されたことは有名です。大阪大での破壊の過程は、
占領軍の従軍記者が撮影していました。
これを入手した (大阪大出身の) 先生が自らパソコン上で編集したものを、
研究会で歴史的背景として披露してくれたのです。
(まだ先生のパソコン上だけにある段階だそうです)。
旧理学部の建物を重機で壊し、加速器だけでなく
実験用のベータ線分析器までも分解して搬出し、
松林で組み立てなおし、中に爆薬を詰めて爆破した、
という一連の行為がニュース映画のようでした。
関係者は静止写真をみる以上に悲しくなるだろうなと、
妙にセンチな気分になりました。
なお、理研の加速器と関係者の歴史については、
上坪宏道先生が 「 理研の加速器 ― 1910年代から現在まで 」
というタイトルで日本加速器学会誌に連載されています。
専門的な記述も含みますが…。
2 巻 2 号( 2005 )、2 巻 3 号( 2005 )、3 巻 1 号( 2006 )です。
こんな悲しい時期を経て、
日本の高エネルギー加速器が世界のトップをとったのは 40 年後でした。
それからさらに 30 年余がたって、
国際的な形でリニアコライダーを実現したいと願っているわけです。
建設の過程をデジカメで記録してみたいですね。
岩田正義より
Copyright©2006 Linear Collider Forum ,All rights reserved.